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Professor Maruyama

 

 エストニア人と対話する機会があったのは2010年だったが、エストニアで実質的に現地調査を行ったのは、2013年が初めてであった。その時のエストニア人たちからの語りは、今も鮮明な記憶で残っている。例えば、「私達エストニア人は主にキリスト教徒だけど、森の精霊を信じているし、週末に森や湿地を歩くのが良いと考えている」と。あるいは「すぐに誰とでも仲良くなるわけではないが、一度信頼できる関係になると、その関係は続く」と。最初は笑顔もないし、話す時は怒っているのか、と不安にさせる彼らの表情は、エストニアの長い冬のように、じっくりと向き合ってみると変化する。当時、「これは日本人向けノンフォーマル教育( https://amzn.to/2BnBz8u )にうってつけだ」と直感し、その後の5年間で8回もフィールドワークすることになった。
 欧州諸国に比べると日本では、その圧倒的な規模にもかかわらず、画一的な教育のほか、似通ったメディアからの流行内容や消費行動が認められ、日本の若者の中には他人と異なることに劣等感を持つ者もいる。上智大生には国際的ななにかに関心を持つ者が多いものの、その割には米国流のマナーがグローバルに通用するものだと捉えている者も多い。「グローバル競争に勝ち抜く人材」になる目標を掲げる学生には、1年生の時からインターンシップに勤しみ、大学の講義は役に立たないとし「インターン面接を受けるので」と堂々と欠席理由を述べる者もいる。自分の将来を描く、選択肢を増やすのが大学生活の一部であることから、それは自由の一部であろう。
 エストニア共和国という、日本ではあまり知られていない国を訪問する本ツアーは、現地の同世代の若者と語り合うことで、学生が多様なコミュニケーションスタイル、生活様式、伝統と文化、そして自然との共存を自分自身の原体験として得る機会を大切にしている。特に今回は、10年お付き合いさせていただいている「バルト海」プロジェクト(BSP)の仲間たちから協力を得て、3年に1回開催される国際カンファレンスにも特別参加させていただいた。BSPの詳細については、丸山(2014)*を参照にしていただきたいが、学生らはBSPの徹底した参加型学習とそのネットワークに刺激を受けたようである。このツアー報告書の作成が例年より遅くなったのは、上智大学公認サークル「Eestimaja(エストニアの家)」を立ち上げたためでもある。まだ活動が始まったばかりのEestimajaは、前年度までのツアー参加者にも呼びかけ、身近な持続可能性を模索していくようで、引率した者としては頼もしいかぎりである。
 最後になったが、今回もお世話になったエストニアの友人たち、BSPの仲間たち、スタディツアーを支えてくれた学内外の皆様に改めて感謝を申し上げたい。エストニアからBSPカンファレンスへの移動は、エストニア人、ラトビア人、リトアニア人の参加者たちとともに、30時間かけたバスであった。途中ポーランド、ドイツを通りながら、フライト移動では分かりえない、ヨーロッパ大陸の広さとボーダーレス状態も実感できた。一緒に長時間のバス移動に耐えた、学生と他国の生徒や引率教員たちにも、ご苦労さまと心からお伝えしたい。(2018/12/17)

*丸山英樹(2014)「ユネスコスクール・ネットワークに見られる持続可能性:バルト海プロジェクトと大阪ASPnetを事例に」『国立教育政策研究所紀要』143: 183-194.( https://www.nier.go.jp/kankou_kiyou/143-303.pdf

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